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2006年 02月 28日
【制作】1973年 東映京都
【監督】鈴木則文 【原作】凡天太郎 【脚本】掛札昌裕、鈴木則文 【音楽】荒木一郎 【出演】池玲子(猪の鹿お蝶)、根岸明美(仕立屋お銀)、成瀬正孝(柊修之助)、大泉滉(羊川実磨)、名和宏(岩倉直蔵)、河津清三郎(黒川義一)、三原葉子(黒川八重路)、殿山泰司(葛西徳造)、碧川ジュン(しのぶ)、クリスチナ・リンドバーグ(クリスチーナ) @ラピュタ阿佐ヶ谷 「嗚呼!七〇年代劇画イズム!」特集 自分の部屋に一人でいると、とりとめもなく鼻歌を歌っていることがあります。鼻歌のレパートリーはたいてい決まっていて、それは特別思い入れがあったり素晴らしい曲というわけではなく、鼻歌としておさまりがいい歌、つまり、「音として出すのが気持ちがいい歌」だったりします。その一つにあげられるのが、藤純子の『緋牡丹博徒』。「娘~盛りを~渡世にかけて~」っていうやつです。この馬鹿みたいに単純な演歌が、また「出して気持ちがいい音」でできた曲でして、こう、ノドをふるわせて歌ったりなんかすると、ちょっとしたストレッチをしたようにスッキリするんですよねー。曲じたいはまぁホントに陳腐で、メロディなんかも悲しいほどパターンどおりなんですが。 ところで、私は任侠映画が大好きなのですが、任侠映画にも同じようなことが言えると思うのです。悪に立ち向かう美しいヒロイン(もしくはヒーロー)が、「ナメたら・・・(一息タメ入って)ナメたらいかんぜよ!」とかカッコよく啖呵をキメて、バッサバッサと悪玉を斬っていくさまは、ただただ「見ていて気持ちがいい行為」。そしてたぶん、仮に自分が演じることができたとしても、「やって気持ちがいい行為」なのではないでしょうか。って、バッサバッサ人を斬るシーンなんかゾッとする!最低!という方には、納得していただけないとは思いますが。 しかしホントに、任侠映画って陳腐なものが多いです・・・(とは言え、どんな映画だってワンパターンから逃れるのは難しいとは思うのですが、それはまた別のお話)。ストーリィはほとんどお決まり通りだし、任侠映画に出てくるヤツらは皆なバカばっかり(笑)! どうして私はこんなものが大好きなんだろう・・・私は悩みました(ってほどでもないけど)。しかし。これってもう理屈じゃなくて、生理的な反応――出して気持ちがいい音とか、見ていて気持ちがいい行為とか――なのだ、と思うに至りました。そう、生理的な反応に抵抗できるような強い私ではないのです・・・(って、もしかして大胆発言? ←どうでもよし) というわけで(相変わらず前置き長い)、『不良姐御伝 猪の鹿お蝶』を見てきました。監督が『緋牡丹博徒』シリーズの生みの親、鈴木則文だったので、これは見なきゃ!!と思いまして。 ストーリィはやっぱりというか何と言うか、素敵にアホっぽいのですが、こういうB級映画にありがちな、何でもかんでも詰め込んだ「福袋戦法」(勝手に命名)を採用。ストーリィを簡単に説明しますと。(ネタバレあり) 主人公のお蝶は、幼いときに父親を殺されました。倒れていた父親の手には、何故か3枚の花札「猪」「鹿」「蝶」が・・・(いつから持っていたのか謎)。 そして、明治38年。美しい女博徒となったお蝶は、3枚の花札を手がかりに父親の仇を探します。そこに、反体制(革命家?)の青年・修之助や、イギリスの女スパイ・クリスティーナなどが絡んできますが、なんと偶然もいいところで、この修之助とクリスティーナは、昔恋人だったという設定なのでした(どうやら修之助がイギリスに留学していたらしい)。 だって入浴中に襲われたから・・・しょうがない・・・よ・・ (青木さやか似?) (衣装は「明治村」レベル) そんなわけで偶然に偶然が重なって、お蝶は早くも仇の一人を発見! それは、岩倉土建の岩倉。彼の背中には、「鹿」の刺青が・・・。さっそくお蝶は、カラダ中にドイツ産の毒を塗り、それと知らずにお蝶のカラダにむしゃぶりついた岩倉は、サッサと息絶えるのでした。 (サイケなマットは、畳です) さらに、お蝶は、政界の黒幕・黒川の背中に「猪」の刺青がある、ということを知ります。さっそく黒川をしとめようと男装して列車に乗り込んだお蝶、ところが、イキナリ現われた修道女グループ(謎)に逆にしとめられ、黒川の屋敷にある黒ミサ礼拝堂に半裸状態でつるされるハメに・・・(そして映画は何の脈絡もなく『聖獣学園』の世界へGO!)。そしてメッタ打ちにされた挙句、黒川の妻・八重路が実はお蝶の実の母親で、しかも背中に「蝶」の刺青、つまり父親の仇のうちの一人だということが判明するのでした。あぁ。 そんなわけで、礼拝堂の天井から縛られて吊り下げられたまま、放置されるお蝶。絶体絶命! しかし、手にした花札(いつから持っていたのかは謎)でじみちーに縄をこすって、ついに縄を切ることに成功!(ありえません) 憎き仇・黒川にトドメを刺し、血まみれのまま雪の中を去っていくのでした。 原作は、凡天太郎。もとは劇画だったそうなので、どういう作品だったのかぜひ見てみたいものです。こういう荒唐無稽なストーリィって、実写映画だと難しいけど(時間も短いし)、漫画だと面白かったりするんですよね。 ちょっと調べてみたら、この凡天太郎っていう人物がまた興味深くて。彼のプロフィールが「フリンジ・カルチャー」ブログに詳しく書かれていたので、ちょっと簡単にまとめてみました。 凡天太郎は、昭和3年(1928年)生まれ。戦時中は、予科練(=海軍飛行予科練習生=少年航空兵=のちに特攻隊)に入隊(同期に、安藤昇がいたとか・・・)。戦後、京都で刺青師になり、彫清という名前で知られるように。同時に少女マンガ家としてもデビュー。やがて、放浪の刺青修業や、流しの演歌師、あるスジの組員にまでなったり・・・という放浪生活を8年続けた後、劇画の世界に復帰。映画化もされた『混血児リカ』などを発表します。 その他、モハメッド・アリのリングガウンをデザインしたり、刺青模様のファッションデザインを発表してピエール・カルダンに認められたり、戦争問題についての劇団公演を行ったり、『彫清・番外地演歌・凡天太郎の魅力』(1972年)という演歌レコードも発売したり・・・と、マルチな才能を発揮。現在、沖縄在住。 何だか、凄い・・・。この人の評伝があったら、かなり面白いと思われます。 ちなみに、この凡天太郎に頼んで、背中に「鬼花和尚魯智深」の刺青を彫ったのが、竹中労。竹中労は、ルポライターで、マレーネ・ディートリッヒ来日公演や『戒厳令の夜』などのプロデューサーで、夢野京太郎というペンネームのシナリオライター。で、彼の父親が、竹中英太郎。竹中英太郎は、江戸川乱歩の多くの作品や夢野久作の作品などの挿絵を描いていて、「ドグラマグラだけは、俺が描いてみたかった」と後に言っていた・・・。などなど、いろいろつながっていくのが面白いです。 >> 「松岡正剛の千夜千冊」。竹中労『ルポライター事始』 >> Hugoさんの「Hugo Strikes Back!」。 竹中労による夢野久作と竹中英太郎についての読み物 主演の池玲子は、1954年生まれ。バストは驚きの98センチ。『不良姐御伝~』と同じ鈴木則文監督の『温泉みみず芸者』でデビュー。東映ポルノ女優第一号として、絶大な人気を誇ります。しかし、72年にピンク映画から引退を宣言、一般映画に出演するようになりますが(『仁義なき戦い 代理戦争』にも出演)、麻薬問題や賭博問題などのトラブルもあったりして軌道に乗らず、いつしかスクリーンから消えていったそうです。 >> チーム政さんの「トクガワスケバンゲイシャ」。池玲子のプロフィールあり。 また、池玲子は、70年代に人気のあった「お色気歌謡」ジャンルの歌手としてもデビュー済み。そういえば最近、池玲子『恍惚の世界』(Tiliqua Records)というCDが復刻発売されて、ちょっと話題になりました。裏ジャケットが「乙女エロ」で可愛いので、必見です(→こちら)。ちなみに、この「Tiliqua Records」というCDレーベルの主宰者はベルギーの方で、主宰者の趣味が高じてこういったCDを出しているんだそうです。日本のセックス&ヴァイオレンス&サイケデリックなB級映画は、海外でビデオ・DVDになっていて、人気ジャンルとして結構定着しているんですよね。日本ではビデオもDVDもないような作品も、たくさんソフト化されています。そうそう、QTことクエンティン・タランティーノも大好きですしね、日本のエクスプロイテーション映画。 >> 「日本映画(邦画)をアメリカ盤DVDで見よう!」 >> 「アメリカ版DVDオンラインショップ DVD Fantasium」 素晴らしくセンスがいい、『不良姐御伝 猪の鹿お蝶』の米国版DVDジャケット。 英題は、『Sex&Fury』。 ちなみに日本ではDVD化されていません(ひどいね!) ↓ さらに続けて、イギリスの女スパイ・クリスチーナ役で出演した、クリスチーナ・リンドバーグ(Christina Lindberg)について。1950年、スェーデン生まれ。私はポルノとか特に興味がないのでよく知らないのですが(ホントです)、70年代に一世を風靡したエロティック女優だそうで。寸づまり系のロリ顔が、いかにも日本人受けしそうです。本作品のほかに、中島貞夫監督の『ポルノの女王 にっぽんSEX紀行』にも出演済み(すごいタイトルだ!)。ちなみに、元VOLVOの重役の娘っていうのは本当でしょうか?(←2ちゃん情報) 代表作は、『片目とよばれた女』(Thriller ~They Call Her One Eye)というアメリカ映画。アイパッチの女が、復讐のために戦ったり脱いだりする映画のようです・・・。で、またまた登場するのが、こういうエクスプロイテーション映画が大好きで大好きで大好きで大好きでたまらないQT(クエンティン・タランティーノ)。『キル・ビル』に登場する「エル・ドライバーことカリフォルニア・マウンテン・スネーク」というキャラクターは、この『片目とよばれた女』のアイパッチ女をパクったものなんだとか。しかもQTは、参考までにと、エル役のダリル・ハンナにこの映画を見せたそうなんですが、これほどまでにヒドイ映画をかつて見たことがなかった純な(?)ダリル・ハンナは、かなりのショックを受けたんだとか。QTってば、やることが悪趣味なんだから~(「キル・ビルのそんなこと 100+1」より)。 クリスチーナのアイパッチ↓ ダリル・ハンナのアイパッチ↓ クリスチーナの可愛い画像を発見したので、ついでに。 (これ、エキサイトからクレーム来るかなぁ・・・) (「獅子鼻」って、向こうでは人気あるらしいですよ) というわけで、任侠映画について書くつもりだったのに、なぜかスウェーディッシュ・ロリィタ・エロチカ・ネタになってしまいました・・・。 えーと、最後に書いておきたいことを一つ。この『不良姐御伝~』のラストシーンは、素晴らしく芸術的でした。父の仇を討った後、雪のなかをよろよろと歩く、両肌脱ぎのお蝶。露わになった乳房(刺青アリ)にべっとりとついた血を、雪のかたまりでぬぐう――。と、ちらちらと降る雪が、やがて花札になって、完。
by houtoumusume
| 2006-02-28 03:20
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