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2005年 07月 07日
前回に引き続き、ハーバート・リスト(Herbert List) の
「ヘンテコセンスとモダンな意匠の素晴らしき邂逅」シリーズ。最終回です♪ ■ボマルツォの怪物庭園編 イタリア・ローマから車で1時間くらいの小さな町ボマルツォ(Bomarzo)には、うっそうとした木々のなかに奇怪な石像が建ち並ぶ、奇妙な庭園があります。それが、通称「ボマルツォの怪物庭園」。幻想・怪奇ファンの方なら知らない人はいませんね。その石像のなかでも最も有名なのが、この「怪物の首」です。 撮影:Herbert List 「Bomarzo」(1952) 16世紀に造られて以来ずっと忘れられた存在となり、荒れ果てるがままになっていたこの庭園。20世紀に入って、文学者・美術史学者マリオ・プラーツが『ボマルツォの怪物』というエッセイで紹介したのをきっかけに(『官能の庭』に収録)、文学者アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグが『ボマルツォの怪物』(渋澤龍彦/翻訳)を発表。これによってボマルツォの名は、一気に世に知れ渡るようになります(1957年)。また、その同年、グスタフ・ルネ・ホッケが『迷宮としての世界』(種村季弘・矢川澄子/翻訳)でボマルツォの庭園をマニエリスムの代表的作品として論じ、さらに翌年の1958年、アルゼンチンの作家ムヒカ・ライネスが『ボマルツォ公の回想』という小説を発表。・・・そんなわけで、ボマルツォの庭園は世界的に有名になっていったのでした。 ここで注目したいのは、ハーバート・リストがこの作品を撮影した年。なんと、1952年。つまり、マンディアルグが『ボマルツォの怪物』を発表した年よりも5年も早い!! これにはビックリしました。ここでもまた、時代に先んじてしまっているハーバート・リスト。ヘンテコアンテナが鋭いというか、ヘンテコ嗅覚が冴えているというか、ただものではないですよ・・・。まだ観光地化されていなかったせいか、怪物の石像の前で少年がのどかにヤギ?の番をしています。このユーモラスなセンス。ただのモダニズムの人ではありませんね。 ボマルツォの怪物庭園は、1550~60年頃、ヴィキノ(Vicino)と呼ばれたピエルフランチェスコ・オルシーニ公爵(Orsini 1528-1588)が、美しい妻のジュリア・ファルネーゼ(Julia Farnese)のために、建築家ピッロ・リゴリオ(Pirro Ligorio)に造らせた、と言われています。 この庭園を造った理由もいろいろ推測されているようですが、この時代(マニエリスム~バロックの時代)は「奇異」や「驚異」が流行した時代。奇妙なものが単純に喜ばれ、普通に受け入れられただけなのではないでしょうか。別に不思議な謂われや奇怪な理由なんかなくって、縁日のお化け屋敷とかビックリハウスみたいなものを自分の庭に作っちゃっただけなんだろうな、と。(上の写真は、わざと傾けて造った家。ビックリハウスそのものです!) そういえば、荒俣宏の名著『バッドテイスト』に、面白い記述がありました。 「ルネサンスの庭は、体と心を健康にする装置としてつくられた。心を健康にするには、三つの方法がある。一つは思考すること、一つは歌い会話すること、そして最後の一つはビックリすることだった。驚きは、眠り込んだ精神に喝を入れ、活発にする。精神によき刺激を与える心の活動は、驚くことであった。」 はじめの二つ、思考することと歌い会話するためには、良きテイストのもとにデザインされる必要があります。例えば、静かな環境、草地や池。しかし、驚くためには、良きテイストは役に立たない。なぜなら、「驚きとは真正なテイストから生じる反応ではなく、むしろ逆のバッドなテイストに触れて惹起されるもの」だから。こうして、良きテイストとバッドテイストが補完しあって、素晴らしい体験が可能になるのでした。美しいなぁ~~~。どちらが欠けても、不完全なのですよー! この「怪物の首」の大きく開いた口のなかは、グロッタになっていて、しかも舌べらに見立てたテーブル(笑)があるそうです。さらにその唇にあたる部分には、ラテン語で次のような一文が刻まれています。 「OGNI PENSIERO VO」 = 「思念はことごとく飛ぶ」(渋澤龍彦・訳) つまり、考えたってそんなものはすぐ消えていくぞ~~考えるなんぞヤメとけ~~ってことでしょう。スゴイこと言ってますよ、この怪物は。深いんだか、浅いんだか・・・(たぶん浅い)。 >>ボマルツォの怪物庭園の詳細が見られるサイト 「THE SACRED GROVE OF BOMARZO」 >>ボマルツォの怪物庭園の歴史 「THE SACRED GROVE OF BOMARZO」 >>ハーバート・リストのギャラリィ 「Fahey/Klein Gallery」
by houtoumusume
| 2005-07-07 11:18
| ◆芸術
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